認知症等の相続人がいるとき

認知症や知的障害、精神障害の相続人がいるときの対応

認知症等の相続人がいるとき

相続が発生したとき、相続人の中に認知症知的障害精神障害になっている人がいる場合があります。

相続人が認知症等であっても相続人としての権利は有しているので、無視することはできません。これらの人を除外した遺産分割協議は無効となり認められません。

とはいえ、認知症等は人によって症状も様々であり、相続においては意思能力(自分の状況を理解して物事を判断する能力)の有無が重要になります。

意思能力を欠いた人がいる場合、そのまま遺産分割協議をしても他の相続人の言いなりになって不利益な結果になる可能性があるからです。よって、相続人に認知症等になっている人がいる場合、意思能力の有無によって以下のように対応が変わってきます。

  • 認知症等であっても意思能力がある場合、その相続人も参加して遺産分割協議を行う
  • 認知症等で意思能力がない場合、成年後見制度を利用して後見人等を選任し、選任された後見人が本人に代わって遺産分割協議を行う
成年後見制度

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって自分で物事を判断する能力(事理弁識能力)が不十分な人を保護するための制度です。

これらの人が単独で物事を判断、実行しようとすると、他人が勝手に話を進めて本人の意志に関係なく財産を処分してしまったり、都合の良いように物事を処理してしまったりする可能性があります。

そこでこれらの人に後見人等を付け、一定の法律行為を行うときには後見人等の同意が必要になるように行動に制限をかけることで、認知症等になっている人が不利益を被らないようにしようとするものです。

成年後見制度では「任意後見制度」と「法定後見制度」の二種類があります。

  • 任意後見制度
    本人の判断能力があるときに、予め信頼できる人との間で「任意後見契約」を締結して、判断能力が低下したときの財産管理等に備えます。その後、本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、任意後見人が任意後見契約に基づいた事務を行っていく制度です。
  • 法定後見制度
    意思能力が失われた人に対して、本人や親族等が家庭裁判所に申立を行い、不利益を被らないようにするために法律上で定められた後見人を選任してもらい、後見人等が本人に代わって法律行為をしたり同意を与えることで、本人の権利や財産を保護する制度です。

相続手続きで意志能力が失われている相続人がいる場合は、「法定後見制度」を利用します。

法定後見制度では、後見人が必要な人の状態に応じて「補助」「保佐」「後見」の三種類に分けられます。このうち、どの種類に該当するかは医師による診察結果等によって決まります。

  • 補助
    精神上の障害により判断能力が不十分な者
  • 保佐
    精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者
  • 後見
    精神上の障害により判断能力を欠く常況(常に判断する能力が失われている)状態にある者
意思能力のない相続人がいるときの手続きの流れ

相続において問題になるのは、相続人の中に認知症等で物事を理解・判断することができない相続人がいる場合ですが、このときに必要な手続きの流れは次のようになります。

  1. 意思能力が失われている相続人に法定後見人をつけるために、家庭裁判所で「後見開始の審判」手続きを行い後見人(成年後見人)を選任してもらう
  2. 選任された成年後見人が意思能力が失われている相続人の代理人となり、他の相続人との遺産分割協議に参加する
  3. 遺産分割協議がまとまったら遺産分割協議書を作成し、その内容に応じて遺産の名義変更等の手続きを行う(手続きに必要な署名等についても成年後見人が代理して行う)

気をつけなければいけないのは、意思能力が失われている相続人が不利益になってしまう内容の遺産分割協議をすることは認められません。

成年後見人は、意思能力が失われている相続人が不利益にならないように法定相続分程度の遺産を相続するよう他の相続人と協議し調整していきます。

成年後見人選任までの手続き

成年後見人の選任手続きは家庭裁判所に対して申立を行うのですが、申立をしたからといってすぐに終わるわけではなく、申立をしてから最終的に選任されるまでには数ヶ月程度、場合によっては一年近くかかることもあります。

手続先 意思能力が失われている相続人(本人)の住所地の家庭裁判所
裁判所の管轄区域:裁判所HPより)
申立人 本人、配偶者、四親等内の親族など
必要な費用 ・収入印紙800円
・裁判所から書類を送付するときに必要な切手
(各裁判所で確認)
・登記印紙4000円
※状況によっては鑑定料(5万円〜15万円程度)が必要
必要な書類 後見開始の申立書  1通(裁判所HPより)
・申立人の戸籍謄本(本人以外が申し立てるとき)  1通
・本人の戸籍謄本、戸籍の附票、成年後見登記事項証明書、
 診断書  各1通
・成年後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、
 成年後見登記事項証明書 各1通
※場合によっては、この他にも書類を要求されることもある
※参考
医師に作成してもらう鑑定書・診断書について
(裁判所HPより)

成年後見人には一般的に親族がなることが多いのですが、場合によっては専門家(司法書士、行政書士、弁護士、社会福祉士)等がなることもあります。

相続において気をつけなければいけないのは、被後見人と後見人が相続人同士となって、お互いの利益が相反する(遺産を争う)ときです。

例えば、父が死亡し、認知症になっている母(被後見人)と、母の後見人になっている子が相続人となるようなときが考えられます。このとき、母と子はお互いに父の遺産を巡っての相手方となっています。

上記のような事態になると、母の権利を守るために「特別代理人」を選任する必要があるので、注意してください。

また、成年後見人となった人は遺産分割協議が終われば終了というわけではなく、その後も成年後見人として財産の管理等の仕事をしなければいけません。

成年後見人をやめることができるのは、やむを得ない事情があると家庭裁判所が認めて許可した場合、又は意思能力が失われている人が死亡した場合に限られます。成年後見人になる場合は、事前に十分に考えるようにしてください。


お問い合せメールフォーム    遺言相続支援センターへ依頼するメリット

遺言書の作成・相続手続きは遺言相続支援センターへ

相続人に認知症等の人がいる場合、意思能力の有無などの判断が難しい場合があります。どうすればいいのか迷ったときは、遺言相続支援センターにご相談ください。